第139回 民主主義を発展させるためのテクノロジー「Plurality」
Pluralityとは何か?
具体的にはどのようなテクノロジーがあるの?
前提として、Pluralityという概念はまだ生まれたばかりであり、それを構成するテクノロジーについても明確な定義があるわけではありません。
しかし、タン氏やワイル氏、およびその賛同者が行ってきたさまざまな社会実験やプロジェクトからは、次のようなテクノロジーが注目されています。
また、SBTやNFTを使えば、さまざまな社会活動への参加履歴を分散台帳に記録しておくことができ、プロジェクトへの貢献が可視化できます。
AIによる熟議の促進
より多様な意思を政治に反映させるために、AIを使って熟議を推進することもPluralityの範囲です。
「熟議」とは多様な当事者による「熟慮」と「討議」を重ねながら政策を形成していくことですが、この考え方自体は1990年代から「熟議民主主義」として勃興し、世界中でさまざまな取り組みが行われてきました。 しかし、多様な意見を集約し、整理し、より良い議論を行い、最終的な意思決定に導くにはさまざまな技術的制約がありました。
多くの人の意見を拾うだけでも大変ですし、インターネット上のやりとりは発散しがちで、意見を収束させていくような議論もしにくいです。
意見が多様であればあるほど、合意形成は難しくなります。
また、人間にはさまざまな認知バイアスがありますが、そのようなバイアスを客観的に示すことも難しい点です。 AIやインターネットテクノロジーを活用することで、このボトルネックを解消できる可能性があります。 前述のplurality.netでは「Broad Listening」と言われていますが、多様な意見を集め、意見の分布を統計的に表現したり、議論の論点や足りない視点を示したりといった点が期待されています。 たとえば、Pol.isというツールを使うことで、多様な意見を集め、同様の意見を持つ集団をクラスタリングし意見の分布を示すことができます。 Plurality Tokyoについて
英語のイベントにもかかわらず、130名以上の方々が参加し、Pluralityに関する注目度の高さがうかがえました。
https://www.youtube.com/live/Ma7E6T16n5Y
◆写真1 Plurality Tokyoの模様
https://gyazo.com/2a53a84b144d6067f62e9ab291e25946
誰でも参加できますので、ご興味のある方はぜひ最新の情報を取得していただければと思います(写真 2)。
◆写真2 イベント後の集合写真
https://gyazo.com/7380a5e477d2bf901b9c26d00e9fab1a
Pluralityについての期待
ここまで、オードリー・タン氏とグレン・ワイル氏の提案をもとにPluralityについて解説してきました。
最後に、筆者がこのPluralityに感じる可能性について述べさせていただきます。
Code for Japanでは、市民が主体的に公共に関わり、自分たちの住む地域を改善していくシビックテックという活動を10年間推進してきました。
本連載でも紹介してきたように、オープンデータやハッカソンなど市民側のさまざまな活動は盛り上がってきていると感じますが、まだまだ行政の共創については限定的であると思います。 いくつかの要因があるはずですが、そのうちの1つは、民主主義に対する熱量の低さやあきらめにあるのではないでしょうか。
筆者自身、シビックテックの活動を始める前は、「ちゃんと納税していれば、あとは行政の仕事でしょ」と思っていました。
しかし、Code for Japanの活動で各地を回ることで、あらためて民主主義の大切さを実感することになりました。
Pluralityは、このような本質的な概念をテクノロジーで発展させる可能性があります。
技術者として研鑽を重ねてきた中で、このようなムーブメントに関われることにとてもワクワクしています。
読者のみなさんも、このフロンティアに足を踏み入れてみませんか?